西暦79年にヴェスヴィオス山の噴火で炭化した古代ローマの巻物を、物理的に開くことなく完全に解読することに、国際研究チームが初めて成功しました。X線スキャンと機械学習を組み合わせた手法により、約2000年前のパピルス文書の内容が明らかになりました。
解読されたのは「PHerc. 1667」と呼ばれる巻物で、「ヴェスヴィアス・チャレンジ」では「スクロール4」として知られています。内容はストア哲学の倫理や人間の本性、道徳的な発展に関する論考で、紀元前3世紀のストア哲学者クリュシッポスの甥にあたるアリストクレオンの名が記されています。「われわれは何かを探求するだろうが、もし自己から離れれば、それを把握することはできないだろう」という一節も含まれています。
技術面では、欧州放射光研究所で撮影した高解像度X線スキャンのデータをAIアルゴリズムで処理し、巻かれた状態のままデジタル上で展開することで、内部に書かれたギリシャ語のテキストを可視化することに成功しました。機械学習は個々の文字の認識で誤りを生じることがあるものの、正しいギリシャ語の文法や語法に照らし合わせると、単語全体の誤認識はほとんど起きないとされています。
ヘルクラネウムで発見されたこれらの巻物は、カエサルの岳父とされるルキウス・カルプルニウス・ピソが所有していた邸宅から出土しました。19〜20世紀の開封作業で外層が損傷し、元々19〜24センチあった巻物は8センチの芯部だけが残っています。今回の研究は、物理的な開封を一切せずに完全解読を達成した点で画期的です。
ヴェスヴィアス・チャレンジは2023年3月、ケンタッキー大学のブレント・シールズ教授と元GitHubのCEOであるナット・フリードマン氏らが立ち上げたプロジェクトで、非侵襲的技術による巻物解読に懸賞金を設けました。2023年10月に最初の単語が解読され、2024年2月にはコンペティションの受賞者が発表されていました。今回の完全解読に用いたソフトウェアのソースコードはGitHub上で公開されており、今後さらなる巻物の解読に向けた取り組みが期待されています。