人工知能(AI)による同時通訳の技術が急速に進歩する中、「そもそも外国語を学ぶ必要があるのか」という根源的な問いが、中国の教育現場で波紋を広げている。広東省深圳市にある新設の深圳理工大学が、一部のクラスで英語の授業を段階的に廃止し、異文化コミュニケーションの授業に置き換える実験的な方針を明らかにしたことが契機だ。
同大学の趙偉教務長はテレビ番組で、2026年から開設する実験的なクラスにおいて、英語の授業を段階的に廃止し、異文化コミュニケーションの授業に置き換えるカリキュラムを導入すると説明した。趙氏は「なぜ私たちは今も英語を学ぶ必要があるのか」と疑問を投げかけ、高度な同時通訳ツールを使えば他言語での意思疎通がいつでも可能であるため、これからの語学学習は「趣味」のようなものになり得るとした。
この大胆な方針に対しては、賛否が分かれている。賛成派は、外国語学習の負担を軽減することで、より多くの時間を専門分野の研究や論理的思考力の育成に充てられると肯定的に評価する。一方で、反対派は「言語は単なる伝達の道具ではなく、異文化への理解や国際的な視野を養うために不可欠だ」と反論する。同時通訳ツールでは表現できない感情の微細なニュアンスや文化的な文脈があり、それらをくみ取るためにはやはり自ら学ぶ必要があるという懸念も根強い。
AIの急速な普及は、従来の語学教育のあり方を再定義する局面を迎えている。技術による自動化が進む一方で、人と人が直接向き合い、他者の心を通わせるためのコミュニケーションの本質が今、改めて問い直されている。