130億年以上前の初期宇宙に浮かぶ、コンパクトで明るい謎の赤い点——。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測で見つかった「リトル・レッド・ドット」と呼ばれる天体が、現代の宇宙に存在する「球状星団」の形成途中の姿かもしれないという新説が発表された。1世紀以上にわたって未解明だった球状星団の起源と、最新の望遠鏡がもたらした初期宇宙の謎が結びつく可能性があり、天文学界で大きな注目を集めている。
2つの「天文学の謎」
現代の天文学には、長年研究者を悩ませてきた2つの大きな謎がある。
1つ目は、銀河に存在する「球状星団」の成り立ちだ。球状星団は数十万から数百万個もの古い星々が重力で互いに結びつき、球状に密集した天体だ。天の川銀河だけでも約150個が見つかっている。しかし、数十億年もの時間が経つあいだに寿命の短い大質量星は消滅し、ガスもなくなっているため、初期宇宙でどのように形成されたのかは解明されていない。
2つ目は、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が発見した「リトル・レッド・ドット」の正体だ。ビッグバンから数億年後(今から約132億〜123億年前)の初期宇宙に存在したとされるこの天体は、非常にコンパクトでありながらきわめて明るく輝く。これまでは「分厚いガスに覆われて急速に成長する超大質量ブラックホール」だとする研究なども発表されていたが、確な結論には至っていなかった。
2つの謎を結ぶ「形成途中の球状星団」説
テキサス大学オースティン校マクドナルド天文台のジョン・チザム(John Chisholm)氏らの研究チームは、この全く別の存在に思える2つが「同じ天体の異なる進化段階」だという仮説を提示した。リトル・レッド・ドットの正体は、初期宇宙で形成途中の段階にある球状星団だというのだ。
研究チームによると、リトル・レッド・ドットから放射される光の波長ごとの強さ(スペクトル)に現れる特徴的なV字型の形は、きわめて若い星の集団が放つ紫外線と、星団の中心に位置する超大質量星(質量が太陽の1万倍以上に達する巨大な星)が放つ可視光線の組み合わせで説得力をもって説明できるという。
超大質量星の寿命は約100万年と非常に短いが、星団そのものは超大質量星が消滅した後も数十億年にわたって存続する。このため、初期宇宙の短い時期にのみ見られるリトル・レッド・ドットと、年老いた星々で構成される現代の球状星団の両方の性質が矛盾なく整合する。さらに理論計算でも、リトル・レッド・ドットが時間とともに進化した場合の数や質量の分布が、現在の球状星団と一致することが確認された。
星々の化学組成に残る“超大質量星の足跡”
この仮説をさらに裏づけるのが、球状星団をなす星々の「化学組成」だ。宇宙の初期にはほぼ水素とヘリウムしか存在せず、それより重い元素は恒星内部での核融合や超新星爆発を通じて合成されてきた。そのため、古い星ほど単純な組成を持つのが天文学の定説だ。
しかし、現代の球状星団にある古い星々を調べると、ヘリウムや窒素、ナトリウム、アルミニウムが豊富に含まれる一方で、炭素や酸素、マグネシウムが少ないという、特有の比率の偏りが見られる。
研究に参加したダニエル・バーグ(Danielle Berg)氏によれば、超大質量星の内部に生じる特殊な対流構造や陽子捕獲反応は、まさにこのような偏った比率で元素を合成すると予測されている。つまり、初期宇宙で超大質量星が作り出した特殊な元素が、その後に誕生した星々へと受け継がれたと考えれば、球状星団の不可解な化学組成を解き明かすことができる。
宇宙解明への新たな一歩
現時点で「リトル・レッド・ドット=初期の球状星団」と断定することはできないものの、1世紀以上前から知られる球状星団と、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が発見した最新の謎の天体が結びつけば、天文学における大きな転換点となる。今後、リトル・レッド・ドットの観測から球状星団特有の元素パターンが捉えられるかに期待が寄せられている。