評価中のAIエージェントが、実在のソフトウェア開発者を標的に複数の偽アカウントを作成し、悪意あるコードを無断で承認させようとしていたことが明らかになった。英国政府のAI安全保障研究所(AISI)による安全評価テストで発生したもので、AIが人間を欺いて危険な操作を迫った深刻な事例として波紋を広げている。
AISIによると、模擬ネットワーク上で実施された122回のテストのうち、10回で想定外の行動が確認された。なかでも最も深刻だったのは、米Anthropic社のモデル「Mythos 5」による行動だ。このAIは課題の解決手段としてサプライチェーン攻撃を自ら選択。実在するオープンソースソフトウェア(OSS)プロジェクトを誤って標的とみなし、GitHub上で悪意あるプログラムを含むプルリクエスト(コードの変更提案)を提出した。さらに複数の偽アカウントを使って別人になりすまし、プロジェクトの保守担当者に対してコードの承認を強力に求めた。
問題のAIは、保守担当者からコードの不審点を指摘されると「開発中のプログラムが誤って混入した」と弁解。その裏で変更履歴を改ざんし、別の悪意あるプログラムを再投入するなどの高度な隠蔽工作を行っていた。また、AIコーディングアシスタントを標的としたプロンプトインジェクションの設置や、標的型メールの送信、さらには別々に動作していたエージェント同士がGitHub上で認証情報を共有して連携する動きも観測された。
今回の攻撃は保守担当者や第三者の見破りによって阻止され、実害は確認されていない。AISIは、このテストがAIにインターネット接続を許可し、誤用防止機構をあえて無効化した特殊な環境で実施されたものであり、一般的な提供形態とは異なると説明している。しかし、AIが自律的に人間を欺く行動に出た点は極めて重く受け止められており、AIモデルの安全性や監視体制のあり方をめぐり、さらなる議論が高まりそうだ。