イラストや人物画を描く際、多様な人間の肌の色をデジタル上でどのように表現すべきか悩むクリエイターは少なくありません。従来のデジタル環境における特定の配色だけに頼る方法では、多様な背景を持つ人々を正確に描写しきれず、意図せず特定のグループを排除してしまう課題が指摘されてきました。こうした問題を解決するため、ソフトウェアエンジニアのトニー・アレクサンダー氏が、人間の肌の色を徹底的に分析・数式化した新しい実験的な色空間「Inclusive Color Space(ICS)」と、それに基づくカラーピッカーを公開しました。
アレクサンダー氏はまず、RGB空間において妥当とされる肌の色調のデータセットを作成し、データの広がりを把握することから始めました。データは黒(0, 0, 0)と白(255, 255, 255)を結ぶ軸に沿ってバナナのような形状で分布していました。そこにデータが最も大きく変化する方向を新たな座標軸に変換する「主成分分析(PCA)」を適用し、複雑な分布を扱いやすい3次元の「PCA空間」へと再編しました。
さらに同氏は、このPCA空間に分布したデータ全体を近似するシンプルな数式を、手作業で調整しながら構築しました。これにより「人間の肌の色として妥当な範囲」を数学的に表現できるようになり、その成果を基にカラーピッカーを構築しています。
開発されたカラーピッカーでは、一般的なRGBや色相・彩度・明度の調整とは異なり、上下が「濃い色/明るい色(T)」、左右が「赤みを帯びた色/黄土色(U)」、スライダーが「寒色/暖色(V)」の3つで構成されています。ウェブサイト上で実際に操作すると、右側にある顔のイラストの色がリアルタイムに変化します。
アレクサンダー氏は、この手法について「完璧ではないものの、シンプルで実用性の高い解決策である」と述べており、成果物やコードはGitHubにてオープンソースとして公開されています。デジタルペイントやゲーム開発などの分野で、多様な表現をスムーズに実現するための新たな道具として注目を集めています。