米中による人工知能(AI)分野の覇権争いや地政学的リスクが高まる中、自国で基盤技術を保持する「国産AI」の重要性が増している。海外製のオープンモデルを基に改良を加える手法が主流となりつつある中、日本のベンチャー企業であるPreferred Networks(PFN)は、独自のAIモデル「PLaMo」を既存モデルに頼らずゼロから構築する「フルスクラッチ開発」を貫いている。自社で設計図から全プロセスを主導する背景には、AIの透明性と日本語処理の効率化を追求する明確な戦略がある。
PFNがフルスクラッチ開発を重視する最大の理由は、AIの「説明責任」を果たす点にある。公開されている多くのオープンモデルは出力を決定するパラメータのみを提供しており、事前学習に使われたデータセットの詳細は非公開であることが多い。そのため、知的財産(IP)を扱う企業などからは「著作権を侵害するデータが含まれていないか」という懸念が寄せられる。PFNでは学習データの選定から自前で行うため、データの安全性を明確に説明できる。また、AIが誤った情報を出力するハルシネーションなどの不具合が生じた場合でも、原因となったデータセットを特定して修正する対応が可能となる。
さらに、日本語の処理性能を高める点でも大きな利点がある。PLaMoでは設計の初期段階から日本の文化や知識を考慮し、独自のトークナイザーを開発・搭載している。これにより、海外製モデルのトークナイザーと比較して日本語を処理する際に消費するトークン量を約2〜3割抑えられるという。計算効率を高めることで、利用コストを抑えながら高品質な応答を実現し、「日本語で最もコストパフォーマンスが高いモデル」を目指している。
一方で、AIモデルが社会的インフラとなる中、海外企業への依存は地政学的なリスクを伴う。世界情勢の変化によって海外製AIサービスの提供が停止する事態に備え、国内で事前学習からの開発ノウハウを蓄積しておくことが欠かせない。PFNは新興AI企業Noetraへの技術協力などを通じ、国内の計算基盤を活用した「完全な国産AI」の実現も見据えている。単なる性能競合を超え、外部ツールと連携するAIエージェントとしての機能強化を進めることで、自立的なAIエコシステムの確立を目指す。