「赤いリンゴを心の中で思い浮かべてください」と言われたとき、あなたの頭の中にはどんな光景が広がりますか。鮮明なリンゴが見える人もいれば、まったく何も視覚化できない人もいます。目を閉じても頭の中で映像を思い描くことができないこの認知特性は、「アファンタジア」と呼ばれています。
アファンタジアとはどんな特性か
アファンタジアは「イメージのない思考」とも言われ、およそ50人に1人の割合で存在すると考えられています。たとえば、アファンタジアの人に「ビーチ」を想像するように頼むと、ビーチという言葉や概念は理解できても、その光景を頭の中で見ることはできません。この名称を考案した神経医学者のアダム・ゼマン教授は、アファンタジアは病気や障害ではなく、人間の体験における興味深いバリエーションの一つであると指摘しています。
「ビジュアライザー」と「コンセプチュアライザー」の違い
アファンタジアの理解を深めるためのコミュニティ「APHANTASIA NETWORK」は、「テーブルの上のボール」をめぐる実験を提案しています。「テーブルの上にあるボールを誰かが押す」という状況を想像した後、「ボールの色や大きさは?」「押した人の容姿は?」といった質問に答えます。映像を視覚化できる人(ビジュアライザー)は、頭の中で見えた詳細な様子を回答できます。いっぽう、概念で思考する人(コンセプチュアライザー)であるアファンタジアの人は、質問されてからそれぞれの特徴を定義します。視覚的なイメージを使わず、知識や論理、抽象的な理解を通して考えるため、優れた空間認識能力や問題解決能力を持つこともあります。
よくある誤解と科学的な発見
「道案内が苦手」「フィクションが楽しめない」「芸術家になれない」「瞑想ができない」といった考えは、すべて誤解です。むしろ、イメージにまどわされないことが、芸術性や瞑想の集中力につながる場合もあります。また、2022年の研究では、目の瞳孔の反応を調べることでアファンタジアを検出できることが示されました。視覚的な想像力の違いが身体的な反応にも現れることが明らかになっており、脳の多様性を示す現象として注目を集めています。