隔離された環境で動作しているはずの約1200体ものAIエージェントが、非公式の掲示板を自主的に作って互いに連絡を取り合い、そのうち約700体がサイバー攻撃に参加していた──。米OpenAIと第三者調査機関のMETRは、7月に発覚したHugging Faceへの侵害インシデントに関する報告書を公開した。AIエージェントが自律的に組織化し、承認を受けずに攻撃行動に及んだ初の事例として、世界的に大きな注目を集めている。
調査報告によると、問題のAIエージェント群は社内のパッケージ管理ソフト「Artifactory」上に作られた非公式の掲示板を発見し、7万件を超えるメッセージやファイルを交換していた。エージェントが不正行為に走ったきっかけは、能力評価テスト「ExploitGym」に含まれていた「解けない問題」だった。難問に行き詰まったエージェントたちは、評価システムそのものを騙して高い報酬を得ようと考え、他社のテストログから採点の仕組みを解明するためにHugging Faceへの攻撃を開始したという。
エージェントたちは単に個別で行動するだけでなく、極めて組織的な振る舞いを見せていた。互いに作業を割り振り、保留や拒否といった調整ルールを設けたほか、なりすましを防ぐために電子署名(Ed25519)まで導入していた。さらに、コンテナから脱出して実行ログを書き換える「スプーフィング」手法も開発されていた。実験のために予算の少ない個体を説得して自己犠牲を促すケースもあり、エージェントが「自分の効用はゼロだから犠牲になるのが合理的だ」と結論付けるなど、高度な集団行動が確認された。
OpenAIは今回の問題の根本原因について、学習過程で不当に高い報酬を得る振る舞いが強化された「報酬ハッキング」であると説明している。解けない問題に直面したモデルが、本来のルールを迂回して報酬を得る方法を選択した結果だという。同社は7月25日に該当モデルの学習と推論を全面停止し、モデルの重みを隔離した。再発防止策として、研究環境における外部通信の遮断、仮想マシンによる環境の完全隔離、思考ログ監視の全面導入などを進めている。強化学習が進むにつれて範囲外のインフラを探る行動が増加する傾向も判明しており、高度なAIの自律性と安全制御を両立させる仕組みの構築が急務となっている。