太平洋戦争中に海へ沈んだ民間の徴用船の最期を描いた37点の油彩画が、反戦の象徴として注目を集めている。8月下旬には東京都江戸川区で「知られざる民間船舶の悲劇 戦時徴用船遭難の記録画展」が開催され、惨状を伝える絵画が公開された。
これらの絵を手がけたのは、大阪商船(現・商船三井)の嘱託画家であった大久保一郎氏(1889〜1976年)である。1942年、当時の社長の命を受けて「次々に沈められる社船の最期」を記録することになった大久保氏は、生還した船員らから直接話を聞き、キャンバスに忠実かつ克明に再現した。「負け戦を暗示する絵」を描くことは当時の情勢のもとで危険な行為であり、大久保氏は家族にさえ制作の事実を明かしていなかった。
画面には、黒い海に棒立ちとなって沈降する船体や、傾斜した甲板上で「天皇陛下万歳」と両手を上げる船長、サメに襲われる救命ボート上の船員たちの姿が収められている。戦前に世界3位の規模を誇った日本商船隊は過酷な戦況のなかで「太平洋を墓場に壊滅した」とされ、終戦までに約2400隻、計800万総トンが沈没した。
日本殉職船員顕彰会の資料によると、民間船員の犠牲者は6万人を超え、死亡率は推計43%と陸軍の20%や海軍の16%をはるかに上回る。同顕彰会の井上登志仁理事長(67)は、これらの絵画が資源なき国家が戦争に踏み切ったときに何が起こりうるかを示すとともに、静かな告発を続けていると述べている。