新作レースゲーム『Forza Horizon 6』のオープンワールドに再現された日本を走ったプレイヤーからは、「夜中に車を走らせたときの空気感そのものだ」「現実の風景そのままだ」と驚きの声が上がっている。しかし、開発を担当したイギリスのゲーム制作会社Playground Gamesには、開発初期の段階で日本人スタッフも日本語を話せるスタッフも一人もいなかった。約100人の海外チームはいかにして、日本をよく知る人が見ても違和感のない「本物の日本らしさ」を表現できたのだろうか。
その鍵を握るのが、文化アドバイザーとしてプロジェクトに参加した山下恭子氏だ。山下氏は『ファイナルファンタジー』シリーズなどの海外展開やPRを長年担当し、日米のゲーム業界で文化の架け橋を務めてきた人物だ。前作でメキシコを舞台にした経験から「文化面の監修は可能な限り早い段階から導入すべきだ」と学んだ開発チームは、単なる翻訳にとどまらず、世界観やゲームデザインの根幹に日本文化を反映させるため、山下氏を迎え入れた。
山下氏は、まず現地視察の重要性を強調した。「実際に現地を訪れなければ、クオリティに必ず差が出る」という助言を受け、開発チームの主要メンバー8名が来日し、約1週間にわたるリサーチを実施。東京の街並みや箱根の峠道、大黒パーキングエリアなどを巡った。彼らが現地で感銘を受けたのが「秩序ある混沌」という日本の日常だった。渋谷のスクランブル交差点のように大勢の人々が交錯しながらも静かに衝突を避ける光景や、きれいに保たれた車、クラクションがほとんど鳴らない落ち着いた雰囲気など、資料だけでは分からない「生の感覚」がゲームに反映された。
さらに細部へのこだわりは、音やゲームシステムにまで及ぶ。駐車場の出入り口で警備員が鳴らす笛の音、料金所の決済音、街頭や店舗前から流れる音楽の重なり、神社のカラスや箱根のウグイスの鳴き声に至るまで、サウンドチームが収集した環境音が現実感をさらに高めている。また、海老名サービスエリアで目にしたマスコットグッズや駅スタンプの「集める」文化は、ゲーム内のスタンプラリーやキャラクター演出の着想へとつながった。
開発チームが目指したのは、単なる有名観光地の並列ではなく「生活感が息づく世界」でありながら、夜間の金閣寺の門をくぐり車で乗り込めるようなゲーム特有のダイナミックなファンタジーを両立させることだった。山下氏は「実在の文化を尊重しつつ、どこまで面白さのために翻案できるかの判断が重要だった」と振り返る。異文化への敬意と徹底した現地リサーチによって作られた本作は、海外スタジオが従来のローカライズの枠を越え、本格的な文化監修を結実させた先進的な成功事例と言えそうだ。