皮膚がんの腫瘍切除を受けた悪性黒色腫(メラノーマ)の患者にとって、再発や遠隔転移の恐れは長い間大きな負担となってきた。しかし、患者一人一人のがん細胞の遺伝子変異に合わせて作製する「個別化がんワクチン」が、その再発リスクを大幅に減らす可能性が臨床試験で示された。
米製薬大手メルクとバイオ企業モデルナは2026年8月19日、共同開発中のmRNAベース個別化ネオアンチゲン療法「インティスメラン・オートジーン」とがん免疫治療薬「キイトルーダ」の併用療法について、第3相臨床試験(INTerpath-001試験)の速報結果を発表した。本試験の対象は、手術で腫瘍を完全切除したステージIIBからステージIVの悪性黒色腫患者。キイトルーダの単独療法と比較した結果、併用療法を受けた患者群では、がんの再発または死亡のリスクが49%低下し、遠隔転移または死亡のリスクも59%低下したことが確認された。再発のない生存期間(RFS)と遠隔転移のない生存期間(DMFS)の双方で統計的に有意な改善を示した併用療法は、これが世界初となる。
インティスメラン・オートジーンは、切除したがん組織から患者ごとの遺伝子変異を解析し、腫瘍特有の目印である「ネオアンチゲン」を標的に免疫系を活性化するオーダーメイド型治療法である。従来の抗がん剤や一律の免疫療法とは異なり、一人一人の腫瘍に特化した攻撃ルートを体に教え込む仕組みだ。
モデルナの創業者ヌーバー・アフェヤン氏は「2010年の創業当時、mRNAを新たな医薬品とする発想は完全に否定され、個別腫瘍に合わせた治療など夢のまた夢とされていた」と振り返る。研究チームを率いるシドニー大学のジョージナ・ロング教授も「悪性黒色腫の術後治療における新たな診療のあり方を確立する歴史的な成果だ」と語る。現在、両社は非小細胞肺がんや膀胱がん、胃がんなど9つの臨床試験を進めており、今後各国の規制当局へ承認申請に向けた協議を開始する予定だ。